2013年09月19日

富山和子著 『水の文化史』


1980年に文藝春秋社より出版された本の文庫化。長らく絶版になっていた本が「名著復活!」ということで文庫になった。

水不足や洪水など、治水・利水の問題から始めて、環境と人の暮らしとの深い関わりを論じた内容である。「淀川篇」「利根川篇」「木曽川篇」「筑後川篇」の四篇に分れているが、作者が一貫して述べているのは土壌の大切さと、その土壌を育んできた山の民をはじめとする人々に対する思いである。
日本人が雪を邪魔者だと考えるようになったのは、あたかも降水を邪魔扱いして川へ捨てはじめたのと同じときからである。それは川を利用しなくなったとき、川のゆるやかさを期待しなくなったとき、すなわち、交通手段が舟運から陸上へと変わったときからであった。
日本人がこの国土に住み着いてからこのかた、日本列島の自然とは、ことごとく先祖たちの営為によって養われ、維持されてきた自然であった。
海の漁民が漁業権を放棄したときから、海の破壊は急速に進行した。日本人が川を利用しなくなったときから、人と川の関係も一変した。自然をその生産手段に利用して生きる人たちこそ、自然の守り手だったのである。

著者は環境問題について語るとき、決して自然科学的な観点からのみ捉えようとはしない。歴史や文化、人々の暮らしといった様々な面から、「水と緑と土」の問題を考えている。そこが、刊行後30年以上経った今読んでも、実に魅力的なところである。

その視野の広さには、著者が交通の研究者であったという経歴も関係しているのだろう。単一ではない視点を持つことによって、問題を複合的に、総合的に捉えることが可能になったのだと思う。

2013年8月25日、中公文庫、780円。

posted by 松村正直 at 17:08| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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