2013年09月15日

「レ・パピエ・シアン2」2013年9月号

大辻隆弘さんの二つの文章「長塚節 一九〇九年春―小説「開業医」をめぐって―」と「戦後アララギを読む(55)「新泉」近藤選歌欄Q」がおもしろい。

前者では、長塚節と伊藤左千夫の島木赤彦宛書簡を通じて、節と左千夫の小説の特徴や違い、さらには人間の違いを描き出している。細部の描写に長けている一方で、全体の構成や登場人物の心理描写が弱い節。反対に細部の描写は下手であるものの、全体の構成や人物の描き方には力を発揮する左千夫。そんな二人のライバル意識が生々しく伝わってくる内容である。

後者は、近藤芳美と相良宏の間で交わされた政治と文学の問答を経て、近藤の「政治」という言葉の曖昧な使い方に激しく反発した柴生田稔の文章を紹介している。さらに、そんな柴生田の近藤に対する反発の背景に、戦中から戦後にかけての二人の生き方や態度の違いがあったことを記している。

どちらの文章も、無味乾燥で色褪せた短歌史の発掘などではなく、熱く激しい人間ドラマの再現と言っていい内容である。総合誌の特集などに載っている細切れな文章の束より、こちらの方が何倍もおもしろい。読んでいて、ワクワクドキドキするほどだ。

1点だけ残念なのは、「レ・パピエ・シアン」の中で、大辻に次ぐ書き手があまり育っていないように思われること。今号の評論を見ると、大辻の長塚論が6.5ページ、戦後アララギ論の連載が4ページあるのに対して、他のメンバーは山吹明日香「『土』雑感」3ページがあるばかり。せっかく身近に良い手本がいるのだから、それに張り合うくらいの書き手が出てきても良いのではないだろうか。

posted by 松村正直 at 22:59| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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