ゲームセンターのすみで交わした約束を私はいつか忘れてしまう
終バスに浅い眠りを繰り返しどこにでもゆく体とおもう
冷水で手をよく洗う 親ウサギが子どもを踏んで死なせた朝に
手のひらに西瓜の種を載せている撃たれたような君のてのひら
夏の雨 わたしが濡れてしまうのを見ている黒い目をした犬よ
歌集の最初の方に、かつて高校の演劇部に所属していた頃のことを詠んだ「蛍光ペン散らかる床で」があり、後半に、高校演劇でよく上演される曽我部マコト作「ふ号作戦」を題材にした「グロリア」がある。
劇を演じていた人物が、その劇の中に入り込んでしまうような、入れ子構造となっている。そして、そうした演劇的な要素は、この歌集全体にあるように思う。
2013年5月20日、短歌研究社、1800円。