今年は近藤の生誕100年であり、総合誌でも特集が組まれた。その中で私も『早春歌』と『未明』についてそれぞれ短い文章を書いたのだが、初期作品はともかく、近藤の晩年の作品をどのように評価したらいいのか、非常に難しかった。本書はその解明の糸口となる一冊と言っていいと思う。
いま、こうして亡くなられてみると、近藤の晩年は理解されることの少ない、寂しいものであったと思わざるを得ない。自分は近藤の好き理解者ではなかった。
おそらく、著者のこうした悔恨が、近藤の晩年の歌を何とか理解しようという強い思いにつながっているのだろう。それは、一首一首が良い歌かどうかということを越えて、歌人近藤芳美の全体像を掴もうとする試みでもある。
1995年のインタビューを読むと、当時82歳の近藤は、意外なほど明晰かつ冷静に、自分の歌が難解になり理解されなくなっている現状を認識している。それでもなお、「どこかに理解者はいるとぼくは思っているし、思わなければならない」と言って、自分の信念を貫き続けたのである。
歌の良し悪しとは別の次元で、そんな歌人の生き方の重みをずっしりと感じる一冊であった。
2013年7月24日、現代短歌社、2000円。