裏側に張りついているヨーグルト舐めとるときはいつもひとりだ
つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる
空を買うついでに海も買いました水平線は手に入らない
背表紙に取り囲まれてぼくたちのパラパラマンガみたいなくらし
コンタクト型のテレビを目に入れてチャンネル替えるためのまばたき
「千円になります」と言い千円になってしまったレジ係員
右利きに矯正されたその右で母の遺骨を拾う日が来る
いくつもの手に撫でられて少年はようやく父の死を理解する
カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる
病室の窓から見えるすべてには音がないのと君は笑った
第1歌集。今年から刊行の始まった新鋭短歌シリーズ(第一期全12冊)の1冊。
現代都市に生きる若者の日常や孤独感が、繊細な抒情をともなって詠まれている。その中に、時おり冷静で鋭い批評性がまじるのが作者の持ち味だろう。
5首目の「コンタクト型のテレビ」や6首目の「千円になってしまったレジ係員」など、SF的な機知があって面白いのだが、あまりこの路線には行かない方がいいように思った。
2013年5月25日、書肆侃侃房、1700円。