「林檎は酸っぱいだろ?」と聞くと、「いや、酸っぱくない。酸っぱいと思ったことがない」と言う。レモンや柑橘類などは酸っぱいが、林檎は酸っぱくないと言うのだ。
酸っぱい、酸っぱくないと、しばらく問答をして、最後は『広辞苑』の「りんご」の項目に「味は甘酸っぱく」とあるのを見せたりもしたのだが、息子は納得しない。
そのうち、そう言えば最近の林檎はあまり酸っぱくないなと気が付いた。紅玉などの酸っぱい品種に代わって、甘くて大きい林檎が主流になっているからだろう。年々甘くなっているような気がする。
となると、林檎が酸っぱいという常識(?)も、もはや常識ではなくなっていくのだろう。あるいは、私の方がその常識やイメージを引きずっているだけなのかもしれない。今私の食べているりんごは、本当に酸っぱいのだろうか?
かたはらに折々きたる幼子は酸き一片(ひときれ)の林檎を持てり
佐藤佐太郎『しろたへ』