全歌集は、時間のある時にゆっくり読むのがいい。急いで読んでも、多分おもしろくない。
第5歌集『帰潮』(昭和27年)の後記にこんなことが書いてある。
(…)私の歌には事件的具体といふものは無い。短歌はさういふものを必要としないからである。
佐太郎の言葉はいつも明快である。そして、時々ハッとするようなことを言う。ここもサラリと書いてあるが、実はかなり過激で本質的なことを言っている。
これを読んで思い出したのは、小池光の歌集『日々の思い出』のあとがきである。
思い出に値するようなことは、なにもおこらなかった。なんの事件もなかった。というより、なにもおこらない、おこさないというところから作歌したともいえる。
こうして比べてみると、両者には通じ合うものがあるように感じる。