2008年から2012年にかけて静岡新聞に連載された文章の中から133編を選んでまとめた本。短歌、俳句、近現代詩、童謡、唱歌、Jポップなど、幅広い詩歌を取り上げて、解説と鑑賞をしている。
タイトルの「夏は来ぬ」は、もちろん佐佐木信綱作詞の唱歌。
作詞に当たって信綱が強く意識したのは和歌が育んだ季節感を生かすことだった。そのためにまず千三百年の短歌形式を採用した。「うのはなの/にほふかきねに/ほととぎす/はやもきなきて/しのびねもらす」とまさに五七五七七の短歌。
私たちの行った勉強会「近世から近代へ―うたの変遷」の3回目でも、ちょうど同じような話が出ていたところ。信綱は、和歌・短歌史を考える上でキーマンとなる存在だ。
この本を読んで強く感じたのは、唱歌、民謡、童謡、校歌などの「歌」と信綱、白秋、相馬御風ら近代歌人との関わりの深さである。現在では「歌」と「短歌」の距離が離れてしまっため、私たちはそうした「歌」の作詞は、歌人にとって余技だったように思いがちだが、本当はそうではなかったのだろう。彼らはどちらにも同じように、真剣に取り組んでいたのだ。
2013年8月8日、青磁社、2500円。