原作・脚本・監督:宮崎駿。
(以下、映画の内容に触れています)
評価の難しい作品。
歴史モノとして見れば面白く、関東大震災(1923年)、昭和恐慌(1930年)、上海事変(1932年)、国際連盟脱退(1933年)など、大正末から昭和の初めにかけての時代の空気がよく描かれている。当時の風景や風俗、特に上流階級や知的エリートの暮らしぶりがよくわかる。
一方で、物語としては物足りなさを感じる。登場人物の感情の描き方に深みがなく、あまり心を動かされなかった。飛行機作りの話も、恋愛の話も、どちらも中途半端な印象を受けた。
劇中に「シベリア」という名前の、餡子を挟んだカステラのお菓子が出てくるが、いかにも戦前のネーミングだと思う。シベリア抑留のイメージが強い戦後であれば、こういう名前が付けられることはなかっただろう。
MOVIX京都、126分。
こんど食べてみます(売っているのはたまに見ます。歴史あるお菓子なんですねえ)。
戦前のシベリアは、「シベリア出兵」とか「シベリア鉄道」とか、ある種の夢(?)をかき立てる言葉だったのだと思います。
『岩波現代短歌辞典』で「シベリア」を引くと、まず斎藤瀏の
西比利亜の大野打ちひたしよどむ陽に我が屯営の旗はかゞやく
という勇ましい歌が載っています。
その後、「しかし戦後の日本人にとっては、シベリア収容所抑留の悲惨さとして深く刻印されてきた」という記述とともに、窪田空穂の長歌「捕虜の死」や窪田章一郎の
シベリヤの捕虜の臨終(いまは)は想像をこえて知り得ず知らざるがよき
が紹介されています。