長生きして欲しいと誰彼数へつつつひにはあなたひとりを数ふ
たれかれをなべてなつかしと数へつつつひには母と妹思ふ
よく似ていると思う。
1首目は、河野裕子さんの最後の歌集『蝉声』(2011年)の終りの方にある歌。2首目は河野さんの第1歌集『森のやうに獣のやうに』(1972年)の最初の方の歌である。
40年という歳月を挟んで、まるで呼応し合うように、この2首が詠まれている。
以前、「長生きして」の歌が口述筆記された時の様子を録音したテープが、テレビで放送されたことがあったが、それによると、この歌の初案は
誰彼を長生きして欲しいと数へつつつひにはあなたひとりを数ふ
というものであった。語順まで瓜二つであったわけだ。
河野さんの晩年の歌に出てくる「母系」「蝉声」「茗荷」といったモチーフも、実は初期の歌に既に見られるものだ。こうした、初期の歌と晩年の歌のつながりについては、いずれ詳しく考察してみたいと思う。