ふらんす堂のHPに1年間連載された作品を収めた「短歌日記シリーズ」の一冊。1ページに、「日付」「短文」「短歌1首」という構成になっている。コスモス叢書第1035篇。
普通の歌集と違って連作仕立てではなく、一首一首別々の歌が並んでいるわけだが、その分、歌そのものの味わいが濃く感じられるように思った。秀歌が多い。
陽のあたる午後の椅子より立ち上がる 猫のかたちのわたしの影が
ランドセルの鈴鳴らしつつゆく子あり鈴はときをり空からも鳴る
海光の町を旅してきさらぎの日焼けの顔の子らに会ひたり
口内炎の痛みに耐へて口ごもるわれは考へぶかきやうなる
一人づつ傘をひらきてビニールのパックに入る春雨の街
君は君で切ないことがあるだらうわたしの足に尻尾を載せて
にぎやかな人としづかな人あれどランチ同時に食べ終はりたり
長椅子でこのまま眠つてはならぬ夜は出歩く長椅子のため
こめかみに力をあつめ腹筋の運動をする夫を見てをり
壇上でしきりに水を飲むわたし汗かきの人隣りに居りて
とりあえず、前半(1〜6月)から10首引いた。
どの歌にも作者の工夫があって、短歌を読む楽しみを十分に味わうことができる。
2013年7月3日、ふらんす堂、2000円。
彼女は歳に似合わず可憐で愛くるしい。きっと人生にめぐまれ幸せな日々と思う。さて口内炎でわずらっておられる。これにより考え深くなったようなわれとおしゃられる。本当に然りともうしあげる。病もちの歌人には秀歌が多い。神はやさしき愛を与えたまう。このような事があって本物の歌ができて歌が深く高く澄めばいいではないか。