温泉になど興味がなく、家の風呂との違いもわからないし、服を脱いだり着たりするのも面倒だという著者が、「日がなゴロゴロ寝て過ごすために迷路のような温泉宿に出かける」という趣旨で訪れた旅の記録。「Webちくま」に2010年4月から翌年にかけて連載された文章をまとめたもの。
著者の興味は温泉よりも迷路化した温泉宿の建物に向けられている。
ずいぶん昔からやってるんだけれども、建て増したり改築したりしているうちに、とうとうこんな風になってしまった、まさかこんなことになるとは思いも寄らなかった、今さらどうしようもない、慙愧に堪えない、とでも言いたげな、ボロい迷宮宿が面白そうである。
そんな迷宮宿を求めて、著者は日本各地を旅する。三朝温泉、四万温泉、微温湯温泉、伊豆長岡温泉、別府鉄輪温泉、下呂温泉…。 「奥那須K温泉」として紹介されている北温泉には、かつて山登りを兼ねて行ったことがある。最近では映画「テルマエ・ロマエ」に登場していた。
古くからある建物に新しい建物が追加され、建て増し建て増しで大きくなった宿は、迷路化しやすい。しかも、(…)斜面に沿って拡張していった場合は、その傾向が顕著になる。建て増し、と、斜面。これは迷路宿を見分けるときの重要なポイントと言える(…)
ところどころに載っている写真を見ても、異次元の世界へ導かれるような、そんな不思議な気分になる。建て増しと斜面か、なるほどなるほど。
2011年12月5日発行、筑摩書房、1500円。