2013年06月26日

高橋輝次編著 『増補版 誤植読本』


近代から現代まで、誤植をめぐる様々な文章を集めたアンソロジー。2000年に東京書籍から刊行された本に6編を追加して文庫化したもの。外山滋比古、森まゆみ、小林勇、杉森久英、大岡信、坪内稔典、斎藤茂吉、吉村昭、串田孫一など、全53編が収められている。

「王子」が「玉子」に、「引分」が「31分」に、「事情」が「情事」に、「手首」が「生首」に、「粟」が「栗」に、「天井」が「天丼」に……と、思わず笑ってしまうような例がいくつも挙がっている。

もちろん、結社誌の編集や、本を書いている身としては他人事ではない。
私は発見したり、指摘されたりする度毎に、初校・再校・三校の校正刷を点検して、一体この誤植は何校目から始まっていて、どこの誰の責任であるかをつきとめて見ようとした。しかし驚ろいたことは、そういう誤植の大部分が既に初校の校正刷にあり、それが再校から三校まで、ずっと誰からも発見されずにいて、そのまま印刷されたものだということだった。      小宮豊隆「誤植」

本当にそうなのだ。「塔」でもしばしば、あり得ないような誤植が見つかるのだが、わが家に残してある校正刷をたどると、たいてい初校から、つまり何人ものチェックの目を潜り抜けたもののことが多い。考えれば考えるほど不思議である。

歌人の相澤正は土屋文明の教え子で、昭和19年に中国大陸で戦病死した人物だが、中央公論社で校正の仕事をしていたらしい。本書に校正に関する歌が引かれている。
校了に間近き刷(すり)を取上げてつぶやきながら誤植ひろひ出す
或日わが見落ししたる幾文字が今日まざまざと頭に泛(うか)ぶ
作業場に誤字直しつつ或時は誇るが如く友の叫びあぐ

こうした風景は、今でもあまり変らないものだろう。

2013年6月10日、ちくま文庫、880円。

posted by 松村正直 at 19:01| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昨日、早速この本を購入しました。

耳が痛いのか慰められているのかわかりませんが、どこにどんな例があろうと、見落としゼロを目指して、出来る限りの努力をすることに、変わりはありません。

興味深い本のご紹介をありがとうございました。
Posted by 近藤かすみ at 2013年06月28日 08:59
多くの人が誤植に悩み苦しんできたことが、よくわかります。でも、悪い話だけではなく、誤植の思わぬ効用といったような良い(?)話も載っているんですよ。
Posted by 松村正直 at 2013年06月28日 19:06
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