2013年06月08日

練乳(その3)

芥川が鵠沼滞在中に書いた「鵠沼日記」には、散歩の途中に道で出会う様々なものに、敏感に反応している様子が描かれている。
僕は路ばたの砂の中に雨蛙が一匹もがいてゐるのを見つけた。その時あいつは自動車が来たら、どうするつもりだらうと考へた。しかしそこは自動車などのはひる筈のない小みちだつた。しかし僕は不安になり、路ばたに茂つた草の中へ杖の先で雨蛙をはね飛ばした。
僕はやはり散歩してゐるうちに白い水着を着た子供に遇つた。子供は小さい竹の皮を兎のやうに耳につけてゐた。僕は五六間離れてゐるうちから、その鋭い竹の皮の先が妙に恐しくてならなかつた。その恐怖は子供とすれ違つた後も、暫くの間はつづいてゐた。

神経過敏と言っていいだろう。「鋭い竹の皮の先が妙に恐ろしくてならなかつた」というあたりが、おそらく「煉乳の鑵のあきがら棄ててある道おそろし」という心情と共通しているものなのだと思う。

芥川龍之介は「大正十五年秋」から一年も経たず、昭和2年の7月に睡眠薬を飲んで自殺する。その睡眠薬は茂吉が芥川に処方したものであった。

posted by 松村正直 at 10:56| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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