副題は「とんかつの誕生」。2000年3月に講談社選書メチエから刊行された『とんかつの誕生―明治洋食事始め』の文庫化。
明治維新は料理維新でもあったという考えのもとに、西洋料理の影響を受けて日本独自の「洋食」が誕生するまでの歴史を描いた本。「あんパン」「ライスカレー」「コロッケ」など、いろいろな洋食が取り上げられているが、中でも昭和4年の「とんかつ」の誕生が大きな到達点として記されている。
「西洋料理」と「洋食」の違いについてであるが、著者は「パンと合うのが西洋料理であり、米飯と合うのが洋食だ」と明快に定義している。
西洋料理の「ホールコットレッツ」が「ポークカツレツ」を経て「とんかつ」へ至るまでに、明治から昭和初期まで約60年が経っている。日本が西洋料理を受け入れて、消化吸収し、さらに自らのものとしていくまでに、それだけの時間が必要だったわけだ。これは料理に限らず、科学、文学、思想、生活など全般に通じる話であり、非常におもしろい。
全体的に記述にはかなりの重複があり、また洋食を生み出した日本の食文化を賛美する姿勢が強すぎる感じは受けるが、私たちの食生活や明治以降の日本の歴史を考えるうえで、大事なことを教えてくれる一冊である。
2012年7月10日発行、講談社学術文庫、880円。
2013年06月03日
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