作品だけではなく、この時期に高野の書いた随筆や「編集と校正」欄の文章なども幅広く引用されており、歌と散文の両方から高野の姿が浮かび上がってくる。資料的な価値も高い。
師弟関係とは何か、歌人が成長するとはどういうことか、結社で歌人はどのように育っていくか、といったことが、非常に具体的に、実例に即して見えてくる。また、初出と歌集収録時の歌の異同も示されているので、高野の推敲の跡をたどることができ、作歌にも役立つ内容であろう。
高野公彦研究という課題は、今後多くの歌人が追究することになるはずであるが、そのための基本資料の意味合いもあるこの論がその一助となることを期待してやまない。
著者が「あとがき」に書いているように、本書は今後の高野公彦研究の貴重な資料となるとともに、高野作品を読み解く上で大きな示唆を与えてくれる一冊だと思う。
2013年5月1日発行、柊書房、2700円。