2013年05月25日

栗木京子歌集 『水仙の章』

まはしつつ電球はづすゆふぐれは足首細き少女にもどる
すみません力不足で、といふやうに寒の日差しのまた翳りたり
路上にて似顔絵を売る青年は余震ののちを夕空仰ぐ
ひざまづく東電社長を腹這ひのカメラマンが撮る午後の避難所
月の夜に街中の猫つどひ来む尻尾の先に花を咲かせて
スモックを着たる小さな命たち日当たる苑に梅を見てをり
落ちながら凍りてしまふ悔しさをとどめて滝は杉群(すぎむら)のなか
たんぽぽの綿毛につかまり次々に母と子どもは西へ飛び立つ
虐待より期待はときに酷(むご)からむLLサイズの子のシャツを干す
母の自慢ひとつづつ減り娘婿が医師なることを今は言ふのみ
娘あらば秋のソファに翅のごとストッキングなど落ちゐむものを
上流にもう橋はなし月夜茸(つきよたけ)もとめて君と山に入りゆく

2009年秋から2013年初春までの作品470首を収めた第8歌集。
「東日本大震災」「水仙添へて」「漁船動かず」「われも一束」「カレンダー」など東日本大震災を詠んだ一連が中核を占めている。また、施設に入った母や亡くなった河野裕子を詠んだ歌にも印象的なものが多い。

比喩(それも多くは直喩)の巧さや時事的な内容を積極的に詠む姿勢も、これまでと変らない栗木の特徴として挙げられる。ただし、全体的にあまり派手さや華やかさはなく控えめな感じを受けた。そのあたりにも震災後の空気が反映しているのかもしれない。

2013年5月23日、砂子屋書房、3000円。

posted by 松村正直 at 10:37| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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