先日の勉強会「近世から近代へ―うたの変遷」で紹介されて面白かったので、早速読んでみた。大隈言道は福岡の人。ちょうど「塔」4月号の「歌の駅(福岡県)」でも取り上げられている。
馬
野べとほくかげかさなりて行駒は道をれてこそかずも見えけれ
風車
いもが背にねぶるわらはのうつゝなき手にさへめぐる風車かな
夏草
ねこの子のくびのすゞがねかすかにもおとのみしたる夏草のうち
夕立
ゆふだちのはれてしみればけふのうちにくれて明たる一夜也けり
秋風
あき風にかどたのいなごふかれきてをりをりあたるまどのおとかな
山家
わがやどをこゝにもがなとみやこ人いひのみいひてすまぬやまざと
1首目、縦に連なって野を行く馬の頭数が、道を折れるとわかったという歌。
2首目、おんぶされて寝てしまった子どもの手に風車が回っている光景。
3首目、猫の姿は見えないけれど、夏草の中から鈴の音だけが聞こえている。
4首目、夕立が止んで空が明るくなると、まるで一晩過ぎて朝になったかのように見える。
5首目、秋風に吹き飛ばされた蝗が、窓にピシピシ当っている場面。
6首目、田舎暮らしはいいなあと言うだけで、結局田舎に住むことはない都会の人。
1938年3月25日発行(1991年10月9日 第2刷)、岩波文庫、520円。