旭川を中心とした道北の地を訪れた歌人たちの足跡を、多くの資料や文献に基づいて丁寧にたどった本。取り上げられている歌人は、石川啄木、九条武子、北原白秋、斎藤茂吉、斎藤瀏と斎藤史。
歴史の分野では、どの地方に行っても郷土史家と呼ばれる人がいて、その土地の歴史について詳しく調べて本にまとめたりしている。短歌でもそういったことがもっと行われて良いのではないだろうか。それは短歌観を複眼的なものとし、東京中心の短歌史を相対化する役目を果たすにちがいない。
現代はインターネットを使ってどの土地のことも調べられる時代である。それは、こうした土地と人との関わりを無意味なものにしてしまうのだろうか。いや、そんなことはない。
私は昭和四十四年の四月に、その「旧志文内」である中川町共和にある僻地四級の中学校に教師として赴任し、そこで三年間過ごした。当時独身であった私に町は旧診療所の一部を改築して二部屋の宿舎として提供してくれた。(…)その旧診療所こそ、守屋富太郎が昭和四年から十七年まで住居兼仕事場として暮らしたところであった。茂吉が訪れて五日間滞在したのも、その診療所兼住宅であった。
西勝氏のこんな文章を読むと、その土地に住んでいることにはやはり大きな利点があることがよくわかる。インターネットで何でも調べられる時代だからこそ、人と土地との関わりは、ますます大きな意味を持つようになっていくのだろう。
取り上げられている歌人のうち、九条武子、北原白秋、斎藤茂吉、斎藤瀏の4人は樺太にも足を延ばしている。その点についても教えられることの多い一冊であった。
2013年3月10日、旭川振興公社、1700円。