「春一番」が壱岐に伝わる悲劇が元になっていることや、「銀ブラ」が「銀座をぶらぶらする」のではなく「銀座までぶらぶらする」ことだったという話など、どれも新しい発見があり推理小説を読むような面白さがある。
そして、大事なことは、それが雑学や蘊蓄レベルにとどまっていないということだろう。
文献、資料をあさり、言葉の由来と特定の土地が結びつくケースを見つけたら、これ幸いとばかりに電車とバスを乗り継いで現地へ出かけてぷらりぷらり。袖振りあうも多生の縁。地元の方と、よもやま話のひとつやふたつ。ついでに語源の話をする気ままな一人旅。
つまり、「言葉」だけでなく「土地」や「地元の方」が必要なのである。言葉をきっかけにして、その背後にある土地や人の物語を探り当てることこそ、著者の狙いなのであり、この本の見どころであるわけだ。
おそらく日本でたった一人の「語源ハンター」が書いたこの本を読んでいると、自分の興味や関心を最優先することの大切さを改めて感じる。他人がどう思うかではなく、自分が興味があるかどうか。そこに一番の力点がある。
2013年3月10日、中公新書ラクレ、860円。