早春のくれなゐの実を頬ばれば甘けれ酸ゆけれ童貞ならねど
『帰去来の声』
童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり
春日井建 『未青年』
田原町袋物問屋の「久保勘」のせがれの発句や湯豆腐は煮ゆ
『帰去来の声』
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎 『流寓抄以後』
佐太郎がスフィンクスに譬へたる魁偉の戦車はM4なりけむ
『帰去来の声』
スフィンクスの如き形をしたるもの夕暮れの街をひびきて来る
佐藤佐太郎 『帰潮』
佐太郎のこの一首は昭和27年に出た『帰潮』には入っていなくて、『佐藤佐太郎全歌集』(昭和52年)が編まれた際に「補遺」として『帰潮』に追加されたもの。そういう経緯も含めて、気になる歌ではある。