2013年04月03日

『帰去来の声』の続き

『帰去来の声』 の特徴の一つに、先行する作品を踏まえて詠まれた歌の多さが挙げられる。いくつか例を引いてみよう。
早春のくれなゐの実を頬ばれば甘けれ酸ゆけれ童貞ならねど
                 『帰去来の声』
童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり
                  春日井建 『未青年』
田原町袋物問屋の「久保勘」のせがれの発句や湯豆腐は煮ゆ
                 『帰去来の声』
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり   久保田万太郎 『流寓抄以後』
佐太郎がスフィンクスに譬へたる魁偉の戦車はM4なりけむ
                 『帰去来の声』
スフィンクスの如き形をしたるもの夕暮れの街をひびきて来る
                  佐藤佐太郎 『帰潮』

佐太郎のこの一首は昭和27年に出た『帰潮』には入っていなくて、『佐藤佐太郎全歌集』(昭和52年)が編まれた際に「補遺」として『帰潮』に追加されたもの。そういう経緯も含めて、気になる歌ではある。

posted by 松村正直 at 01:46| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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