古典和歌と言うと文法や知識の問題もあってどうしても難しく考えてしまうのだが、この本を読むと、まずは自分の感じるように、思うままに読むのが大切だということがよくわかる。
もとより試験問題ではないのだし、正解云々ということはない。この一首はどう読むときに一番魅力を発揮するか、誰もが自由に思いめぐらせればいいのだろう。
こうした歌の読みについての原則は、現代の短歌を読む時だけではなく、古典和歌を読む時にも十分に当てはまるのだ。そう考えただけで、随分と気が楽になる。
以前『歌のドルフィン』を読んだ時にも感じたことだが、今野さんの文章は非常に読みやすく丁寧で、また偉ぶったところがない。歌を読むときの素直な喜びやときめきが、初々しいまでに文章から伝わってくる。
これは、簡単そうで実はけっこう難しいことだ。多くの歌人(特に男性)の文章が、知識をひけらかしたり、自分の論を押し通そうとする強引さを感じさせるのに対して、今野さんの文章の持つやわらかさは、やはり特筆すべきもののように思う。
2012年5月23日、平凡社、2200円。