明治以降、圧倒的な力で西洋文明やキリスト教が日本に広まった。外来の讃美歌の影響を受けつつ、そこに伝統的な歌の要素も加えて、新たに「唱歌」が生み出された経緯を、12曲の例を挙げて解き明かした本。
取り上げられているのは「むすんで ひらいて」「蛍の光」「海ゆかば」「君が代」「さくささくら」など、お馴染の曲ばかり。こうした、今では当たり前のように口ずさんでいる歌の誕生の背景には、日本の近代化をめぐる様々な物語があったのだ。
西洋の圧倒的軍事力と経済力を背景として、十九世紀にキリスト教宣教師が太平洋の国々に到来するようになると、讃美歌や聖歌と呼ばれた大衆的な礼拝音楽が普及し、それによって、これらの国々では伝統音楽を棄てるか、それとも改良して存続させるか、の選択を迫られることになった。
「汽笛一声新橋を」と歌い出される明治三十三年の「鉄道唱歌」は行進曲のリズムで、その大流行は、鉄道と行進こそが日本人の速度感を近代化したことの象徴であったといえよう。
とにかく、読んでいて興味深く、わくわくする話がたくさん出てくる。膨大な資料や文献にあたりつつも、そうした苦労を前面に押し出すことなく、楽しんで読める文章に仕上げている。そのあたりにも著者の工夫があるのだろう。
2003年10月20日、文春新書、680円。