副題は「名作が語る“もうひとつの鉄道史”」。
昭和53年から60年にかけて季刊誌「旅と鉄道」に連載された文章をまとめたもの。同じ著者の『鉄路の美学』と姉妹編になっている。
小説、紀行文、随筆、詩歌などの文学作品に登場する鉄道の姿を通して、その当時の鉄道の状況や時代の様子を描き出す内容となっている。「文学は極めて局部的、部分的にではあるが、そこに登場する鉄道をじつに生き生きと、しかも臨場感豊かに再現してくれる」(あとがき)という一文に、著者の意図は示されているだろう。
取り上げられている作品は、松本清張『点と線』、内田百間(門+月)『東海道刈谷駅』、芥川龍之介『庭』、川端康成『雪国』、石川啄木の短歌など。初出から20年以上の歳月が経っているが、その後の状況についても本書刊行時点に加筆されており、時代の移り変わりをたどることができる。
我孫子が大正時代に多くの文人を迎えて「北の鎌倉」と呼ばれていた話や、鉄道マンであった啄木の義兄のエピソード、「終着駅」という言葉の由来など、興味深い話がたくさん出てくる。
2006年7月25日、国書刊行会、2000円。
2013年02月22日
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