取り上げられている歌人は全部で31名。引かれている歌の多い順に、斎藤茂吉(11首)、石川啄木(9首)、与謝野晶子(9首)、若山牧水(8首)、土屋文明(7首)、北原白秋(6首)・・・などとなっている。
歌の鑑賞とともに歌人の経歴や歌の作られた背景、あるいは先行する読みや鑑賞、議論になっている問題点なども押さえられているので、近代短歌のアンソロジー、入門書として、非常に具体的でわかりやすい一冊になっていると思う。
全体が「恋・愛」「青春」「家族・友人」「死」といった10の章に分けられているのだが、歌の配列にも著者の工夫がある。
父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば死なれざりけり 落合直文
隣室に書(ふみ)よむ子らの声きけば心に沁みて生(い)きたかりけり 島木赤彦
篠懸樹(ぷらたぬす)かげ行く女(こ)らが眼蓋(まなぶた)に血しほいろさし夏さりにけり 中村憲吉
街(まち)をゆき子供の傍(そば)を通る時蜜柑の香(か)せり冬がまた来る 木下利玄
といった並べ方を見ると、なるほどという感じがする。
短歌を作っている人にはもちろん、短歌を作っていない人にも広く読んでほしい一冊である。
2013年1月22日、岩波新書、820円。