2013年02月08日

諏訪兼位著 『科学を短歌によむ』

岩波科学ライブラリー136。

地質学者で朝日歌壇の常連でもある著者が、科学者や技術者の詠んだ短歌を取り上げて解説した本。引用される歌には、朝日歌壇に採られた自身の歌も入っている。

斎藤茂吉、近藤芳美など有名歌人から、初めて聞く名前の人まで、幅広い作品が取り上げられているが、中でも印象に残ったのは湯浅年子と湯川秀樹の二人である。

湯浅は第二次世界大戦中にフランスに留学して、原子核の研究に取り組んだ物理学者。彼女の留学中にパリはドイツ軍に占領され、その後、1944年にベルリンへ移って研究を続け、1945年6月にシベリア鉄道経由で帰国している。何ともすさまじい執念だ。

ドイツ占領下のパリでは「パリ短歌会」が結成されて、歌会も行われていたらしい。
弟はすでにこの世になき人とふたとせをへて今きかんとは
                   湯川秀樹『深山木』

湯川の歌はどれも名のある歌人の歌と比べて遜色のない出来栄えである。この歌は、戦後になって、弟が二年前に戦病死していたという報せを聞いて詠まれたもの。「すでにこの世になき人」という言い方に、深い悲しみが籠もっている。

この本の残念なところは、ルビの間違いが見受けられること。湯川の弟の名前「滋樹」に「しげき」とルビが振ってあるが、正しくは「ますき」。斎藤茂吉の出身地「金瓶」も「きんぺい」とあるが、正しくは「かなかめ」。ちょっと驚いてしまうような間違いである。

2007年5月10日、岩波書店、1200円。

posted by 松村正直 at 07:25| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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