1回あたりの文章は4ページと読みやすく、また的確で歯切れのよい文体が気持ちいい。古典になじみのない人にも、十分に当時の人々のドラマとその面白さが伝わる内容となっている。
第二次世界大戦中にあったという「白い大文字」の話や清水の舞台から願をかけて飛び降りるのが江戸時代に大流行した話など、初めて知る話も多かった。
この鴨川の源流がどこにあるのかごぞんじだろうか。それは、上賀茂神社から車で三十分ほど北へ分け入った集落・雲が畑のその奥にある。そのむかし、都からながめると薬草が雲のようにしげっていたことから名づけられたという雲が畑。いまも神秘的なところで、川とともに生きる人の住む、隠れ里のおもむきを残す村である。
ああ、ここが近藤かすみさんの歌集『雲ケ畑まで』のタイトルになったところか、などという発見もある。
白日傘さして私を捨てにゆく とつぴんぱらりと雲ケ畑まで 近藤かすみ
どの文章からも、筆者の京都に対する深い愛情がひしひしと感じられる。それは「京都に生まれるということは、まったくの偶然であるが、京都に生きるということは、必然からくる覚悟である」(あとがき)という強い思いから来ているものなのだろう。
2008年9月20日発行、NHK出版、1400円。