今から100年前、明治時代の日本語はどのように書かれていたのか。漱石の自筆原稿や当時の新聞、雑誌、辞書などを取り上げて、現在との違いやその意味するところを論じている。
本書の特徴は、数多くの図版を載せて、明治時代の書きことばの豊富な例を具体的に示している点にあるだろう。漢字や平仮名の字体、仮名遣い、振仮名、漢語の読みなどの多様さが、実に印象的である。まさに、百聞は一見に如かずだ。
私たちは「漱石の小説は当て字が多い」などとよく言ったりするが、この本を読むと、それが当時の日本語の書き方としては別に特別なことではなく、むしろ普通のことだったことがわかる。そのあたりは、現在の眼で見ていてもわからないのだ。
明治期とは、「和語・漢語・雅語・俗語」が書きことば内に一挙に持ち込まれ、渾然一体となった日本語の語彙体系が形成された「和漢雅俗の世紀」であった。
といったあたり、明治の和歌革新ともつながる話であろう。日本語と短歌というテーマで考えてみるのも面白そうだ。
2012年9月20日、岩波新書、700円。