2006年に「ふらんす堂」のホームページに1年間連載された文章を1冊にまとめたもの。
1月1日から12月31日まで、1日1首、全365首に200字程度の鑑賞を付けている。
「煙突」「ポスト」「飛行場」「ビル」「トラック」「変電所」「図書館」「パチンコ」など、都市を彩る様々な風景を詠んだ歌。1首1首も面白いのだが、それらが集まることで、明治から現代にかけての都市の移り変わりと、そこに生きる人々の心理の変化が鮮やかに見えてくる。
日付と対応した歌が引かれていることもある。
ビルあまた悲鳴をあげて立つ街を飲み水求めさまよい歩く
廣田由佳理 (1月17日)
都べに兵ら乱るる夜ごろなほまどかなる面を妻に向けゐき
山本友一 (2月26日)
おほいなる天幕のなか原爆忌前夜の椅子らしづまりかへる
竹山 広 (8月9日)
有名な歌人の歌だけでなく、非常に幅広く歌を集めている点も、本書の特徴だろう。
365首あって、同じ歌人の歌は出てこない。つまり365人の歌が載っている。
そうしたアンソロジーとしての面白さも十分に味わえる1冊である。
2008年4月1日、ふらんす堂、2000円。