青春は平凡を嫌ひ月並を忌むものならむ冷ややつこ食ぶ
はつなつの白神岳を登りきてちちいろの霧めをつむり吸ふ
重ければ乳母車に乗りわが家に来し冬瓜のすずしき緑
牧水の泊りし部屋をそのままに時とどまれる法師温泉
花梨ジャム小さい瓶はうすべにに大きい瓶は濃き紅に照る
報道はされず 寄り添ひ仲間なる牛の涎を舐めやりし牛
石灰は雪のごとしも埋葬にあらぬ埋却の巨大なる穴
東日本大震災を語りをりたつた一人の遺体も見ずに
腰弱き日向のうどん食べ終へてともあれ今日を締めくくるなり
仕舞屋(しもたや)の一軒としてある生家他人のごとく通りすぎたり
第12歌集。
2007年から2012年までの作品387首が収められている。
この歌集の特徴の一つとして、旅行詠が多いことが挙げられるだろう。
引いた歌の中では2首目と4首目がこれに該当する。
後記によれば、秋田、群馬、富山、山形、岡山、鳥取、徳島、高知、山口、福岡などへ行った際の歌が入っているとのこと。
もう一つは著者の住む宮崎県で起きた口蹄疫感染の歌。
引用歌では6首目と7首目。
この口蹄疫問題について詠んだ歌が、一番力が入っている。
歌集全体としては、やや擬人法的な詠い方が多いのが気になった。
どれくらいを「ちょうど良い」と感じるかが、人によって随分と違うのかもしれない。
2012年12月19日、青磁社、2800円。