河内の「原人」たちは死の感覚に敏感で、死者の霊を送ったり迎えたりする作法を、厳格に守ってきた。そのなごりが真夏の盆踊りである。河内音頭に合わせて、河内人が忘我の表情で躍り続ける。踊りの輪は渦を巻き、生き物のように伸縮をくり返しながら、目に見えないなにものかを、踊りの輪の中に巻き込もうとしている。古代の河内人はそれが先祖の霊であることを、はっきりと知っていた。
これを読んで思い出すのは、次の一首。
またひとり顔なき男あらはれて暗き踊りの輪をひろげゆく
岡野弘彦『滄浪歌』
まさに、この歌の解説と言ってもいいような文章だと思う。もちろん、岡野の歌に詠まれているのは「先祖の霊」と言うよりは「戦死者の霊」であるが。
岡野のこの歌は、やはり名歌と言っていいだろう。
わずか31音で、死者に対する感覚と鎮魂の思いをみごとに表している。