小池光は自伝的エッセイ「昔話」の中で、自作の
一夏過ぐその変遷の風かみにするどくジャック・チボーたらむと
『バルサの翼』
に触れて、次のように書いている。
この一首は角川『短歌』の読者歌壇で塚本邦雄選で特選になった。マルタン・デュガールの『チボー家の人々』は、当時文学っぽい学生なら必ず読んだ青春の通過儀礼のような大河小説である。(…)この翌月だったか斎藤史選でも特選になり、塚本邦雄と斎藤史の特選になったのでそれきり投稿の時代は終わってしまった。
おそらく、この「斎藤史選でも特選になり」というのが
折れやすい首だから群を擢(ぬきん)でて硝子細工の馬のかなしみ
の一首なのだろう。
小池の第1歌集『バルサの翼』(1978年)は「一九七七年」「一九七六年」「一九七五・一九七四年」という逆年順の三部構成となっている。そして〈一夏過ぐ…〉は歌集の掉尾を飾る一首となっているのだが、〈折れやすい…〉の方は歌集には収められていない。(つづく)