現代の日本で絶滅寸前になっている職業に関するルポルタージュ。
取り上げられる職業は全部で12種類。飴細工師、俗曲師、銭湯絵師、へび屋、街頭紙芝居師、野州麻紙紙漉人、幇間、彫師、能装束師、席亭、見世物師、真剣師。いずれも、確かに今ではほとんど見かけることのない人々である。
こうした職業に対する思いを、著者はこんなふうに述べている。
結局、ぼくという人間はいつもこうなのだ。子供時分に見たかった見世物小屋を見ていない。街頭紙芝居も門付け芸人にも触れることができなかった。子供の頃から寄席に通っていれば、高座で接することもできた先代の文楽も志ん生も見ていない。時代的にかろうじて間に合った世代なのに。1958年生まれの著者は、高度経済成長期にさまざまな職業が失われていくのと入れ替わるように成長してきた世代なのだろう。それゆえに、失われゆく職業に対する思い入れが人一倍強く、熱のこもったルポとなっている。
本書は2005年に刊行された単行本の文庫版で、巻末に「文庫版追記―それぞれのその後」が書き加えられている。文庫版のあとがきや追記には、寂しい結末が記されていることも多いのだが、本書はそうではなかった。2人の方が亡くなっている他はみな元気で、新たに後継者ができた人もいる。
何だか少しホッとした。
2012年10月5日発行、ポプラ文庫、680円。