2012年11月01日

内山晶太歌集『窓、その他』



1977年生まれの作者の第1歌集。「短歌人」「pool」所属。
口のなかに苺の種のよみがえるくもれる午後の臨海にいて
列車より見ゆる民家の窓、他者の食卓はいたく澄みとおりたり
さびしさに死ぬことなくて春の夜のぶらんこを漕ぐおとなの軀
カーテンはひかりの見本となりたれば近寄らず見つ昼のなかほど
馬と屋根ひとつながらに回りゆくそのからくりは胸に満ちたり
夏まひる見渡すかぎりの炎天にサラリーマンは帽子かぶらず
咳すれば肺に銀貨の散るここちせりけりすればするほど貯まる
手花火に照らし出さるる微笑みへ劇画のごとくふかき翳さす
パチンコの玉はじかれて大方はおぐらき洞へ帰りゆくなり
軒下にたたずみながら見上げおり雨というこのささやかな檻
今年は若手男性歌人の良い歌集がたくさん出ているが、これもその一冊。若手と言っても「作歌をはじめて二十年」(あとがき)というだけあって、どの歌も骨格がしっかりとしている。「てにをは」を丁寧に使って、微妙な心理や感覚を描き出すのが実にうまい。

一方で、他者は歌の中にほとんど姿を見せない。これも大きな特徴と言っていいだろう。

「窓、その他」というタイトルの素っ気なさもいい。(読み方は「そのた」ではなく「そのほか」)
作者自身「歌集中に窓の歌が存外に多かった」(あとがき)と書いているように、357首の歌の中に20首以上も「窓」が出てくる歌がある。

電車の窓や部屋の窓、比喩的な窓など、様々な窓が詠まれているのだが、不思議なことに窓を開けたり閉めたりする歌はない。開いている窓から何かが出入りすることもない。作者の詠む窓は、どれも絵のような、画面のような窓である。それは水面や鏡のような感じに近い。

2012年9月25日、六花書林、2400円。

posted by 松村正直 at 20:42| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。