2012年10月28日

40年前の「塔」の歌会


事務所で諏訪雅子さんの旧蔵書を整理していたところ、古い歌会の詠草一覧が見つかった。
1行目に「四八、四、二十二」とある。昭和48年(1973年)のものだ。詠草はすべて手書きで書かれている。

参加者は14名。一人2首で合計28首が載っている。
1、山近きこの街なればビルの間の小さき空に鳶の舞いいる(和泉)
2、白き花おとしたちまちしなやかに青き若葉を立てる沈丁花(〃)
3、春となりて人に逅うこと多くなりぬ我と犬のみの山でありしに(滝田)
4、竹藪になりて竹より高き樹々芽吹きし梢々のかがやき(〃)
5、びっしりと花びら埋め死魚の浮く池の隅雨ふりつづく(濱名潤子)
6、前かがみに草むしり居る生徒らの背に咲きさかりなる桜をおもう(〃)
7、月影にほし草匂う土手なれば夜に醒めいるけものを呼ぼう(塩見)
8、かけ声のあとはみだらに聞えつつ重き荷物が運ばれてゆく(〃)
9、雲の原はるけくひとの向き来るに吹かれつつわれも誰の他者(沢田)
10、砂あらし何処に立てり 口かわく浅きねむりの中にききをり(〃)
11、しづかなる讃歌のごとき日本の春花片が白く地をみたしゆく(竹屋)
12、岩盤に築きし都市の繁栄も脆くゆらめく摩天楼のかげ(〃)
13、自らの悲鳴にも先きを越されたる墜死とう死の悔しからむに(永田)
14、くやしさに少し遅れて駈けゆける秋のランナー背より昏れつつ(〃)
15、さ牡鹿の如き森なり落葉松の幹すくすくと冬枯れしまま(高安)
16、雪山に在りし一日の昂奮の係恋に似て夜半につづけり(〃)
17、青ずみし山間の湖(うみ)にいそがしく騒ぎの波が走り抜けたよ(中村)
18、確実に前へ後へ歩行するすみのちぎれたカードの人形(〃)
19、雨の音閉しつつ降る硬い夜眠れぬ視野に咲く花の群(ぐん)(川添)
20、降りこめては流れる雪を降りしづめおまえはひたすら血を待っている(〃)
21、あとかたもなくたたまれし夜の更けの屋台のあとに犬が来ている(二上)
22、一行の詩もころがっていない巷 春の砂塵を追いかけてゆく(〃)
23、土の上に虫でも草でもなくている我も吹かれて明るき方むく(藤井)
24、草いぶるのみにやましき夕ぐれは動かずにいる犬のいく匹(〃)
25、花の萼紅みわたれる夜の樹々事なきを吾の幸いとして(諏訪)
26、わが肩にきららかに濃き光させばなべて重たき情念も溶く(〃)
27、灰色にかがまる老婆の指先に摘みとられては匂い立つ芹(古賀)
28、西陽あふるる土間にひびきて胡桃の実大きく二つに割られていたる(〃)
13、14の永田さんの歌は第1歌集『メビウスの地平』(1975年)に、15、16の高安さんの歌は第10歌集『新樹』(1976年)に、ほぼそのままの形で収められている。

posted by 松村正直 at 00:57| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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