『高安国世短歌作品集』(白玉書房、1977年)は、高安の第10歌集までの作品を収めた一冊である。そのあとがきに、高安はこんなことを書いている。
十冊の歌集を読み通すのはらくではない。好きな時に好きなだけ読んでいただければと思う。今度読み返してみてはじめて気づいたが、『朝から朝』と『新樹』の中に、三首だけ重複が見られ、恥ずかしく思っているが、全部歌集のもとの形で収めることにしたので、これもそのままにした。得意な歌というわけではない。「得意な歌というわけではない」という一文が、何だかかわいい。誰もそんなこと思わないのに。
こういう文章を読むと、その「三首」はどの歌かというのが気になってしまう。別にどうでも良いことなのだが、調べないと落ち着かない。
というわけで、見つけたのが次の三首。
みなぎろう水は明るし岸明るし魚とらぬ湖かなしきまでに『高安国世全歌集』で言えば、485ページの『朝から朝』の「水辺」の一連と、500ページの『新樹』の「湖岸」の一連に入っている歌ということになる。
建ちかけのコンクリートのビル高々といつまでもあり朽ちることなく
光消え柳のなびきよそよそし我は別人となりて立ち去る