印象に残った文章をもう少し。
登山は選択の連続で成り立っている。(…)選択が正しかったのかそれとも誤っていたのかを山が教えてくれるのは、正しくなかったときだけである。登山に限らず、「正しい選択」とはそういうものなのかもしれないなあと、漠然と思う。
ひとつの山旅とはいったいどこで終わるのか、長年の疑問だった。下山口に着いたときか、打ち上げで乾杯したとき、もしくは電車から登ってきた山並みを眺めたときか。だが、終わったと実感したとき、その山旅は少し前に終わっていたような気がいつもしていた。この微妙な時間差もよくわかる気がする。
何かが「終わった」と思う時には、それはもう既に終わっているのだ。
僕と世界は一枚の薄い皮膚で分かれている。僕という存在はどこまでも肌の内側に詰め込まれた、内臓であり、血と肉と骨であり、脳味噌でしかない。この部分を読んだ時には、ずいぶん前に自分が作った歌を思い出した。
輪郭を明らかにして冬が来る冷たい皮膚のここからが僕服部文祥の本を、これからも読んでいきたい。
『駅へ』