山登り全般にわたって数多くの経験を積んできた著者が、必要最小限の荷物だけを持ち、食料も現地調達する「サバイバル登山」という方法を生み出すに至るまでの履歴を記した本。岩魚の皮を前歯で剥いでいる表紙の写真が強い印象を与える。
「春季知床半島全山縦走」(1993年)、「南アルプス大井川源流〜三峰川源流」(1999年)「日勝峠〜襟裳岬」(2003年)、「北アルプス上ノ廊横断〜北薬師東稜」(2000〜2001年)、「北アルプス黒部川横断」(2002年)といった登山の様子が克明に描かれている。
登山の本ではあるのだが、登山の経験をほとんど持たない私にも十分におもしろい内容だ。それは、著者が登山について確固とした考えを持ち、それをストレートな文体で、力強く生き生きと書き付けているからだろう。
気がついたら普通だった。それが僕らの世代の思春期の漠然として重大な悩みである。おいしい食べ物や暖かい布団があり、平和で清潔だった。そして僕らはいてもいなくてもかまわなかった。1969年に横浜で生まれた著者が抱いた思いは、1970年に東京の郊外で生まれた私にも同じように当てはまる。私がこの著者に引き付けられる理由は、そんなところにあるのかもしれない。
2006年6月19日、みすず書房、2400円。