さまざまなオノマトペ(擬音語、擬態語)を取り上げて、その言葉の肌触りや成り立ち、働きなどを論じた一冊。オノマトペ論であると同時に、オノマトペを切り口にして、言語や身体、人間について考察した内容となっている。
この本の最大の特徴は、著者が文章を書き進めながら、常に考え続けていることだろう。何か一つの結論へ向かってまっすぐに進んでいるのではない。まさに手探りといった感じである。
日本語のオノマトペは、実詞を基に作られた「境界オノマトペ」(くどい―くどくど)とそれ以外の「真正オノマトペ」に分けられることなど、言語学的な説を参照しつつ、それを答えとするのではなく、さらにそこから考えを展開していく。
例えば、
「ね」は、それを発音するとき、「に」以上に舌が横に広がるので、下と上顎の接触面は、その接触によって音を出すナ行のなかでももっとも大きい。(…)この接触面の大きさによって、「ね」は粘着性や執拗さ、つまりはしつこさの音声的表現にぴったりである。といった音声的な分析から始めて、「ねちねち」「ねっとり」「ねとねと」「ねばねば」といったオノマトペ、さらに「ねぶる」「ねたむ」ねだる」といった動詞や「ねんごろ」「ねぎらい」「ねじれ」といった名詞、そして「ねえ」という感動詞にまで話は広がっていく。
オノマトペの持つ身体性は、人間と言葉の関わりを考える上で、一つの大切な鍵になるのかもしれない。
2011年8月25日、角川選書、1600円。