2012年09月25日

ルビ俳句のこと


本来と違った読み方を指定するためにルビを振った短歌をよく見かける。多いのは「息子」に「こ」、「亡夫」に「つま」と付けるタイプである。時には「瞬間」に「とき」とルビが振ってあったりする。これは歌謡曲の影響だろうか。

歌謡曲の歌詞には、しばしばこの手のルビが付いている。「未来」に「あす」、「宇宙」に「そら」、「真剣」に「マジ」、「都会」に「まち」など、いくらでも見つけることができる。

こうした「当てルビ」とも言うべきルビは、近年になって始まったものかと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。先日読んだ正津勉『忘れられた俳人 河東碧梧桐』によれば、昭和の初めに「ルビ俳句」というものがあったそうだ。正津によれば、それは次のようなものである。
これは端的にいえば、音数の多い漢字熟語の正規の読み方にかえて、なにかと複雑になりがちな現今の人間にふさわしい表現のために、当て読みを含めた短い音数の振り仮名をあてる、という書法である。
実際にルビ俳句を実践した碧梧桐の句をいくつか挙げてみよう。
サンガー夫人頬骨(ホネ)立てばほゝゑみさびしら小皺(キザミ)
いよよ孤独(ヒトリ)の天(ソラ)吹かる木守の柿ぞ
便通(ツウ)じてよきを秋(ヒル)らし光(カゲ)を机(シゴト)に向ふ
この引用だとわかりにくいが、「頬骨」に「ホネ」、「小皺」に「キザミ」、「孤独」に「ヒトリ」、「天」に「ソラ」、「便通」に「ツウ」、「秋」に「ヒル」、「光」に「カゲ」、「机」に「シゴト」というルビが振ってある。(「光」に「カゲ」は普通のルビかもしれない)

「机に向ふ」を「シゴトに向ふ」と読ませるのなど、ちょっと面白い気もするが、全体としてはかなり無理がある。ルビ俳句は評判が悪く、弟子たちが次々と碧梧桐の元を離れて行ったという話も、よくわかる気がする。

posted by 松村正直 at 18:09| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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