2012年09月11日

小黒世茂著『熊野の森だより』


写真、楠本弘児ほか。

和歌山市加太(かだ)に生まれ、大阪に住む著者が、熊野の山や海や森や神々や、そこに暮らす人々について記したエッセイ集。ところどころに著者の短歌が効果的に使われている。
ながき影くねらせ川をのぼる蛇あるいは蛇をくだりゆく川
人よりも山猿どものおほくすむ十津川郷へ尾のある人と
エッセイのタイトルをいくつか挙げると、「松煙墨」「ニホンオオカミ」「山蜜切り」「お燈祭り」「あんとくめの寿司」「夜鰻」「那智の大滝」「ヒダル神」など。熊野の風土や生活に密着した内容であることがよくわかる。
 明治生まれの祖父は、鯛の一本釣りの名手であった。父は漁師をいやがったが他にいい仕事もなく、若いころは祖父とともに沖まで櫓をこいだ。
 お隣さんとは魚や野菜を交換し、米櫃のなかも漬物樽のなかものぞき合うほどの、あけすけなつき合いだった。
「今日も、財布の口を開けんでも済んだよし」
と、祖母は毎日しまつの自慢。いまから思えば、まことに質素な暮らしをしていたものである。
著者の生まれ育った漁師町加太の暮らしである。
こうした原体験が、著者の文章や短歌の太い根っこになっているのだろう。

2008年8月8日発行、本阿弥書店、2200円。

posted by 松村正直 at 00:09| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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