2012年09月08日

高野公彦著『鑑賞・現代短歌5 宮柊二』


秀歌百首とその鑑賞が載っているシリーズの一冊。巻末に、さらに「秀歌三百首選」と略年譜も載っており、歌人の全体像を掴むのに良い本である。

宮柊二の歌はあまり鋭さや巧さは感じないが、何とも言えない滋味のようなものがある。師の北原白秋とも高野公彦とも作風は違うのが、師弟関係の面白いところかもしれない。
いろ黒き蟻あつまりて落蝉(おちぜみ)を晩夏の庭に努力して運ぶ   『晩夏』
湯口(ゆぐち)より溢れ出でつつ秋の灯に太束(ふとたば)の湯のかがやきておつ
                        『多く夜の歌』
海(うな)じほに注(さ)してながるる川水(かはみづ)のしづけさに似て年あらたまる
                        『藤棚の下の小室』
鑑賞文は初出との異同や年譜的事実などのデータを押さえつつ、丁寧で行き届いた読みを記した内容となっている。また、「〈こと〉を述べるには動詞が幾つか必要だが、〈もの〉を描くには動詞は多くを必要としない」「文学者の好む素材は、その人の文学の質をおのずから物語っている」など、随所に高野自身の歌論とも呼ぶべきものが含まれている点も見逃せない。

2001年10月20日、本阿弥書店、2000円。

posted by 松村正直 at 00:20| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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