著者は人類学者で、総合地球環境学研究所名誉教授。
クジラと日本人、クジラと人間との関わりについて、経済、文化、政治、歴史、環境など多面的な角度から論じた本。「捕鯨か反捕鯨か」「消費か非消費か」「商業捕鯨か原住民生存捕鯨か」といった二元論に立つのではなく、クジラと人間との関係は多様であり、その多様性を守ることこそが大事なのだと主張する。
例えば、捕鯨に代るものとして、反捕鯨国や団体が推奨する「ホエール・ウォッチング」や「ドルフィン・スイム」についても、著者は次のように述べる。
イルカと遊ぶドルフィン・スイムの体験者と、捕鯨でクジラを仕留める捕鯨者とはまったく違った世界にいるようなものの、体験という共通項で両者はどこかで共有できるものをもっているはずだと考えたい。それはほかでもない、生き物との直接対決ということである。この文脈で考えた時、おそらく両者の対極にあるのは、クジラに対して無関心であること、海の生き物に対して関心を持たないことなのだということが、よくわかる。そして、実はそちらの方が問題としては深刻なのかもしれない。
2009年1月10日発行、ちくま新書、740円。