2012年08月25日

坂田博義の実習日誌(その3)


実習三日目。
二月二十四日

○高さ六尺、はば一間半の本棚が職員室においてある。それに、生徒用の図書が八分どうりおいてある。これは昼休の三十分を利用して、図書部によつて貸しだされる。
 どの様な本を読むのか、みていた。大凡の生徒の読書欲はあまり高いといえないもののようだ。
 ただ、生徒の貸出票をみると、なかにパールバックの「大地」を一巻から読みつづけている者がいた。
 雑草の中に芽ばえたすぐれた資質をみる思いがした。

○今日も出張した先生の補欠として、一年生の国語を教えた。
 宮沢賢治の有名な詩「雨ニモマケズ」が題材であつた。僕はこの詩は優れてはいるが、君等はもつと多くを希んでよいのだと教えた。
 もつと多くを希み、それがかなえられる社会をつくらねばならないのだと教えた。教えてゆき声がたかぶるのをとどめ得なかつた。
「それがかなえられる社会をつくらねばならない」といった言葉には、ある種の正義感と60年安保の時代の雰囲気を強く感じる。坂田は熱心に教育実習に取り組んだようだ。

こんな感じで三月五日まで、13日間にわたって実習日誌は続いている。
しかし、実際に坂田が教師になることはなかった。

posted by 松村正直 at 00:20| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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