宮先生を蝕みしもの戦争と病ひと選歌ありしを思ふ宮柊二の選歌について詠まれたこの二首は、いずれも自身が選歌している場面を詠んだ一連に入っているものである。
高野公彦『地中銀河』
選歌に殺されしとう宮柊二をこの頃肯定しているしかも本気で
永田和宏『百万遍界隈』
良き歌を見落すなかれ選歌する夜半に亡師の低き声せり
書きなぐりの字を読み解きて選歌するこの悲しみは言はむ方なし
採らざれど心に残る歌ありてまた惜しみ読む選終へしあと
高野公彦『地中銀河』
午前五時「塔」の選歌の終わりたり夜の明けるまでをぼう然と居る自分が選歌をする立場になって、あらためて選者の苦労や大変さが身に沁みてわかるようになったということなのだろう。
しとしとと椿の花は落ちつづく選歌を終えし夜明けの庭に
とりあえず眼鏡のあわぬ所為(せい)にして眼精疲労も疲れの一部
永田和宏『百万遍界隈』
河野裕子にも選歌について詠んだ歌が何首もある。
選歌せし三百六十枚が熱(ほめ)く上(へ)に両手をつきて立ちあがりたり上野のホテルや軽井沢のペンション、そして病院の待合室でも時間を惜しんで選歌していた河野さんの姿である。今さらではあるけれど、本当にありがたいことだったと思い、しみじみとした気持ちになる。
不忍池は見ゆれど水嗅がずめぐり歩かず選歌を続く
軽井沢に来てまで一日つぶつぶと書きて選歌す貧乏性は
病院は白衣の人のみが足早ぞ待合室に選歌をしつつ
河野裕子『日付のある歌』