最後の試合終はりたる子のユニホーム洗へばながく赤土を吐く2007年半ばから2012年2月までの作品473首を収めた第7歌集。
北浦に蓮田あをあを揺るる昼だまし絵のごと人ははたらく
経師屋さん鍛冶屋さんとぞ呼ばれゐし老人死にて職業も消ゆ
近代の子どもの情景澄みとほるおほく子を死なす男おやの歌
たくさんの香りを知らず亀は死に木香薔薇のしたに埋めたり
パパとママはいまけんくわしてますと配達の人に言ひたる四つの息子
栗ばかり選り分けたがる子のをらず栗ごはんふうと吹けば秋風
友の夫働かぬことわれのみが怒りて友はひつじ雲描く
聞こえない話にもはや相槌をうつこと止めし母に逢ふ 秋
わかり合ふ女子会ひとり抜けてきて黄葉の街に食ひ込んでゆく
タイトルの「あやはべる」は蝶を意味する(沖縄の?)古い言葉。漢字では「綾蝶」と書くそうだ。
「息子予備校生」「息子進学で家を出る」といった詞書があり、三人家族の形に変化のあったことがうかがえる。一人息子や年老いた母を詠んだ歌に印象的なものが多い。
2012年7月24日、短歌研究社、3000円。