ガリ版刷りの『真実』の謎を解くカギは『平井貴美子歌集』にある。この歌集は昭和29年12月10日発行の非売品だが、判型や体裁がガリ版刷りの『真実』とそっくりなのである。
平井貴美子は昭和27年から29年にかけて「関西アララギ」や「塔」で歌を作っていた方で、結核を患う療養歌人であった。京都市右京区鳴滝にある国立宇多野療養所(現・独立行政法人国立病院機構宇多野病院)に入所していたらしい。
平井さんの「塔」への出詠は昭和29年4月の創刊号から9月号までのわずか半年のこと。闘病生活の末に8月14日に33歳で亡くなっている。同年10月号の「塔」には「平井貴美子さんを憶う」(高安国世)、「平井さんのこと」(太宰瑠維)という二つの追悼文が載った。
我が踵うすべに色にやわらかく八年ほとほと臥り来しかも 平井貴美子
癒ゆるのぞみもはや失せたる現身にほのぼの兆す恋を怖れぬ
とりたてて言ひ遺すべき事もなく死ぬかも知れぬと思ふ日続く