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2012年07月08日

河野裕子著 『桜花の記憶』


河野さんのエッセイ集。1974年から2010年までに書かれたもののうち、72篇が収録されている。「塔」の新樹滴滴に載った文章も10篇くらい入っていて、何とも懐かしい。

読んだことのある文章も多かったが、「ヨブ記 ある日のにっ記―昭和三十九年八月二十九日」「むこう意気」「どっちんの居た川」など、若き日のことを回想したエッセイに印象に残るものがいくつもあった。
離れてみて、初めて見えてくる風景というものがある。そしてその風景は、おそらく風土の本質そのものであるのだろう。(「郷里への遠近法」)
案外気づかれていないが、身銭を切って歌集を読むことは大切である。身銭を切った歌集は、読み込む迫力がおのずからちがう。身につくのである。(「他人の歌を「読む」大切さ」)
歌会では、それぞれの意見を耳をすまして、ひとことも聞きのがすまいと、批評をしている人の顔をまっすぐ見ることにしている。(「歌会の批評はむつかしい」)
本当にそうだったと思う。歌会で発言をしていると、いつもこちらをじっと見ている河野さんと目が合ったものだ。

2012年5月25日、中央公論新社、1500円。

posted by 松村正直 at 00:20 | 歌集・歌書

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