「樺太」と書いて何と読むか。
これが簡単そうで意外と難しい問題なのだ。
石川啄木のローマ字日記のなかに、樺太に関する記述がある。1909(明治42)年4月17日、友人の金田一京助の樺太行きが決まりそうだという話を受けて、次のように書かれている。
キンダイチ君に ドッポの“疲労”その他 2,3篇を読んでもらって聞いた.それから カバフトのいろいろの話を聞いた.アイヌのこと,朝空に羽ばたきするワシのこと,舟のこと,人の入れぬ大森林のこと…….原文のローマ字の綴りを見ても、確かに「Kabafuto」となっている。
“カバフトまで 旅費がいくらかかります?”と予は問うた.
この日の日記には計4回、樺太という言葉が出てくるのだが、そのうち「カバフト」が3回、「カラフト」が1回となっているのだ。
どうも当時は「からふと」でなく「かばふと」という呼び方があったらしい。
先日読んだ工藤信彦著『わが内なる樺太』の中にも、この「かばふと」が登場する。1906(明治39)年8月16日、初めての樺太移住定期船が小樽を出航した際の「小樽新聞」「函館新聞」「北海タイムス」の記事が紹介されているのだが、そこに
なお、三紙とも、〈樺太〉に〈かばふと〉とルビがふられているのが、印象に残った。と書かれているのである。