2012年06月23日

大島史洋歌集 『遠く離れて』


2005年から2008年までの歌を収めた第11歌集。
今ならば出ることはなき全集が古書店の棚を占めて並ぶも
自爆テロのその後を知らぬ死者たちが殺めし数を日々に見つむる
夏水仙すっくと伸びてしなやかな茎は支える六つの花を
耳遠き父がするどく母を叱るおのれの声を恃むごとくに
新聞に故郷の町の地図はあり殺人現場に×印を付けて
蜘蛛の巣は目に見えがたくなりたれど点々と浮く蜘蛛は見ゆるも
トランプの散らばりている夕暮れの坂をくだれば光るトランプ
己が糞片付けらるるを振り返り見ていて犬は歩き始めつ
ふるさとに帰りし兄はブログにて「田舎日記」を書き始めたり
母と共に食事をするためそれぞれがお盆にのせて母の部屋に行く
長年勤めてきた会社を定年退職した作者。ふるさと中津川に住む両親の世話をするために、帰省することが増えたようだ。歌は境涯詠を中心とした平明なものがほとんどで、そこに自ずから苦味のようなものが滲み出ている。師である近藤芳美の死、そして母の死といった大きな出来事が続き、なかなか悠々自適の生活というわけにはいかなかったのだろう。

2012年6月17日、ながらみ書房、2700円。

posted by 松村正直 at 00:23| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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